処遇改善加算の算定要件とは?
種類や注意すべきポイントを紹介
介護職員処遇改善加算は、介護業務に直接従事する職員に交付されるものです。事業所の取り組みや職員の経験に応じた加算額を介護報酬に上乗せして支給される仕組みになっています。
本記事では加算の種類や算定要件を、表を用いて分かりやすく詳しく紹介していきます。ご自身の事業所で最適な加算を見極めて、職員全体のモチベーション向上や処遇改善につなげる参考にしてはいかがでしょうか。
介護職員処遇改善加算とは?
介護職員処遇改善加算とは介護職員のキャリアアップの仕組みを作ったり、職場環境の改善を行ったりした事業所に対して支給される加算です。2009年に介護職員処遇改善交付金が創設され、処遇改善対策として介護報酬に上乗せ支給する仕組みとして始まりました。
これにより、今まで介護業界が抱えていた介護人材の離職率低下は落ち着きを取り戻し、2012年に介護職員処遇改善加算に変遷され今に至ります。
これから取得しようと思っている事業所は、処遇改善加算を取得することにより、介護職員のやりがいを高めたり離職率低下が図れたりするため、本気で取り組むことをおすすめします。
該当する介護サービス
介護職員処遇改善加算は、直接介護をしている職種のみを対象としています。そのため、訪問看護や福祉用具貸与、介護予防など介護従事者のいない事業所は対象になりません。加算の対象となる介護サービスをまとめたものが下の表となります。
訪問・通所・ 短期入所系サービス |
地域密着型サービス | 施設系サービス |
---|---|---|
訪問介護 | 定期巡回・随時対応型訪問介護看護 | 特定施設入居者生活介護 |
訪問入浴介護 | 夜間対応型訪問介護 | 介護老人福祉施設 |
通所介護 | 地域密着型通所介護 | 介護老人保健施設 |
通所リハビリ | 認知症対応型通所介護 | 介護療養型医療施設 |
短期入所生活介護 | 小規模多機能型居宅介護 | 介護医療院 |
短期入所療養介護 | 認知症対応型共同生活介護 地域密着型特定施設入居者生活介護 地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護 看護小規模多機能型居宅介護 |
処遇改善加算の種類
介護職員処遇改善加算は(Ⅰ)~(Ⅲ)の3種類あります。介護報酬に上乗せされる報酬額は、事業所の種類によって異なります。
また、同じサービスであっても、人材育成や雇用環境の改善に積極的に取り組む事業所は高単価の加算が取得でき、要件に満たない事業所は加算が算定できない仕組みになっています。
なお本記事では、加算創設時にあった介護職員処遇改善加算(Ⅳ)、および(Ⅴ)は令和3年3月 31 日で廃止となったため記載していません。ただし、令和3年3月 31 日時点で算定している事業所については、令和4年3月 31 日まで算定できることとなっています。
それでは、介護職員処遇改善加算にはどのような種類や取得要件が求められるのか、具体的に見ていきましょう。
介護職員処遇改善加算(Ⅰ)
介護職員処遇改善加算(Ⅰ)を取得するためには、次の要件をすべて満たさなければなりません。
- キャリアパス要件Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの全ての要件を満たす
- 職場環境等要件を満たす
なお、実施にあたっては就業規則等の書面で整備を行い、全ての職員へ周知することが重要です。要件を満たせば、介護職員1人当たり月額37,000円相当の報酬が上乗せされます。
介護職員処遇改善加算(Ⅱ)
介護職員処遇改善加算(Ⅱ)を取得するためには、次の要件をすべて満たさなければなりません。
- キャリアパス要件Ⅰ、Ⅱの全ての要件を満たす
- 職場環境等要件を満たす
実施にあたっては、就業規則等の書面で整備を行い、全ての職員へ通知が必要です。要件を満たせば、介護職員1人当たり月額27,000円相当の報酬が上乗せされます。
介護職員処遇改善加算(Ⅲ)
介護職員処遇改善加算(Ⅲ)を取得するためには、次の要件をすべて満たさなければなりません。
- キャリアパス要件ⅠまたはⅡの要件を満たす
- 職場環境等要件を満たす
なお、実施にあたっては就業規則等の書面で整備を行い、全ての職員への周知が必要です。要件を満たせば、介護職員1人当たり月額15,000円相当の報酬が上乗せされます。
関連情報
処遇改善加算の算定要件
処遇改善加算は、キャリアアップ制度や職場環境の改善にまだ取り組めていない事業所でも、取得しやすいよういくつかのレベルに分けて要件が設定されています。具体的なキャリアアップの要件やどのような取り組みが職場環境改善につながるかを国が示していますので、その内容を紹介していきます。
キャリアパスが必須
キャリアパス要件となる3つの項目を紹介します。介護職員処遇改善加算を得るためには次の1~3のうちすべて、あるいは、いずれかを満たす必要があります。
- 「職位・職責・職務内容等に応じた任用要件と賃金体系を整備すること」
就業規則などにおいて介護職の主任やリーダーなどの業務内容、賃金体系を書面で周知しておくことが必要です。特定の職位に必要な経験年数や資格などがあれば条件を示すとともに給与や手当を明記することで、介護職員が具体的に自分の将来像を描きやすくなります。 - 「資質向上のための計画を策定して研修の実施又は研修の機会を確保すること」
職場内外で多様な研修の機会を確保することは、人材育成のためには欠かせません。また、新人、中堅、管理者などキャリアにあわせて必要な研修を企画することで、計画的に人材育成を行うことが可能になります。 - 「経験若しくは資格等に応じて昇給する仕組み又は一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けること」
介護職がモチベーションを維持しながら長年働くためには、事業所が昇給体系や中長期的なキャリアビジョンを示すことが重要です。
自分がどれだけ経験を積めばどんな仕事ができ、どんな役割が持てるのか、キャリアビジョンを見えるようにすることで、仕事へのやる気につながります。
キャリアパス要件Ⅰ
キャリアパス要件Ⅰは、加算要件の中で最も厳しく設定されており、上記キャリアパス要件1~3すべてに取り組んでいる必要があります。
各職位への任用要件や賃金体系、研修計画や昇給システムを就業規則などで文書化しておくことが重要です。
キャリアパス要件Ⅱ
キャリアパス要件Ⅱを取得するためには、上記キャリアパス要件1と2両方を満たす必要があります。
現在介護職員処遇改善加算(Ⅱ)を取得している場合は、事業所内での昇給ルールを経験年数や資格と関連させて体系化すれば、介護職員処遇改善加算(Ⅰ)を取得できるので検討してみましょう。
キャリアパス要件Ⅲ
キャリアパス要件Ⅲを取得するためには、上記キャリアパス要件1もしくは2のどちらかを行っていることが必要となります。目安として介護職員1人当たり月額15,000円相当の報酬が得られます。
処遇改善加算を取得していない事業所は、キャリアパス要件の1か2のいずれかに取り組んでみてはいかがでしょう。
職場環境等要件
職場環境等要件は、どの介護職員処遇改善加算においてもかならず満たす必要があります。働きやすい職場であることは、加算取得にかかわらず事業所や職員、利用者様にとってもメリットが大きいので取得していない事業所は注意が必要です。
要件を満たすことはそれほど難しくなく、次の区分の中からいずれか一つでも取り組んでいれば、該当します。
区分 |
---|
入職促進に向けた取り組み |
資質の向上やキャリアアップに向けた支援 |
両立支援・多様な働き方の推進 |
腰痛を含む心身の健康管理 |
生産性向上のための業務改善の取り組み |
やりがい・働きがいの醸成 |
加算を取得する上での注意点
加算取得のために事業所全体でさまざまな要件に取り組むことは大切です。ところが、せっかく文書を作成しキャリアアップの整備を行っても、加算が取得できない場合があります。そのため、あらかじめ処遇改善の制度を確認しておくことが重要です。
本章では、加算を取得する上での注意点をいくつか紹介します。
事業所によって加算率が異なる
全ての介護事業所が一律同じ金額で報酬を得られる仕組みにはなっていません。訪問サービスや通所サービス、入所サービスなどそれぞれ異なった加算率が設定されていますので、事前に確認しておくことが重要です。
サービスごとの 介護職員処遇改善加算の加算率 |
処遇改善加算(Ⅰ) | 処遇改善加算(Ⅱ) | 処遇改善加算(Ⅲ) |
---|---|---|---|
訪問介護 | 13.70% | 10.00% | 5.50% |
訪問入浴介護 | 5.80% | 4.20% | 2.30% |
通所介護 | 5.90% | 4.30% | 2.30% |
通所リハビリテーション | 4.70% | 3.40% | 1.90% |
短期入所生活介護 | 8.30% | 6.00% | 3.30% |
短期入所療養介護<老健> | 3.90% | 2.90% | 1.60% |
短期入所療養介護<病院等> | 2.60% | 1.90% | 1.00% |
特定施設入居者生活介護 | 8.20% | 6.00% | 3.30% |
定期巡回・随時対応型訪問介護看護 | 13.70% | 10.00% | 5.50% |
夜間対応型訪問介護 | 13.70% | 10.00% | 5.50% |
認知症対応型通所介護 | 10.40% | 7.60% | 4.20% |
小規模多機能型居宅介護 | 10.20% | 7.40% | 4.10% |
認知症対応型共同生活介護 | 11.10% | 8.10% | 4.50% |
地域密着型特定施設入居者生活介護 | 8.20% | 6.00% | 3.30% |
地域密着型介護老人福祉施設 | 8.30% | 6.00% | 3.30% |
看護小規模多機能型居宅介護 | 10.20% | 7.40% | 4.10% |
介護老人福祉施設 | 8.30% | 6.00% | 3.30% |
介護老人保健施設 | 3.90% | 2.90% | 1.60% |
介護療養型医療施設 | 2.60% | 1.90% | 1.00% |
介護医療院 | 2.60% | 1.90% | 1.00% |
もらえない事業所がある
介護職員処遇改善加算は、介護職員を対象とした加算であるため介護従事者が配置されていない事業所は、加算の対象とはなりません。下の表で示す事業所は、加算対象外となっていますので注意しましょう。
加算対象外事業所 |
---|
訪問看護 |
訪問リハビリテーション |
福祉用具貸与 |
特定福祉用具販売 |
居宅療養管理指導 |
居宅介護支援 |
介護予防支援 |
非常勤職員やパートはもらえるのか
介護職員処遇改善加算の対象者は「介護業務に従事している人」ですので、非常勤やパートといった雇用形態は関係ありません。
そのため、ケアマネージャーや生活相談員、栄養士や事務員など、直接介護に携わらない職員は対象外となっています。しかし、多職種を雇用する事業所によっては全職員に配慮して報酬を振り分ける場合がありますが、それについては特に禁止されていません。
参考:介護職員処遇改善支援補助金に関するQ&A(令和4年1月31日)
介護職員等特定処遇改善加算との違い
2012年に創設された介護職員処遇改善加算に加えて、2019年に介護職員等特定処遇改善加算が創設され、現在では介護職員への処遇改善がより一層整備されています。
それぞれの加算の特徴を表にまとめましたので、算定要件や配分ルールの違いを理解して、積極的に処遇改善に取り組みましょう。
介護職員処遇改善加算 | 介護職員等特定処遇改善加算 | |
---|---|---|
目的 | 介護職員全般の処遇改善 | 技能・経験を持ったリーダー級の職員の処遇改善 |
算定要件 |
|
|
配分ルール | 特になし | 「経験・技能のある介護職員」の平均引上げ額が、「他の介護職員」より高くすること |
その他 | 令和3年度介護報酬改定では年度ごとに職場環境等要件を実施することが定められました。なお介護職員処遇改善加算と介護職員等特定処遇改善加算の職場環境等要件区分は重複してもよいこととなっています。 |
職場全体で取得に向けて取り組もう
介護事業所にとっての理想は、全ての要件を満たし高い報酬を得ることです。しかしながら、事業所として介護職員が仕事にやりがいをもって成長できる職場を作ることを忘れてはいけません。
そのためには、職場全体で雇用環境の改善意識を醸成しつつ、利用者様のために質の高い介護が行えます。
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