管理者必見!令和版実地指導運用指針から読み解くサービス別対策
実地指導に対して、自治体による立ち入り調査のようなイメージを持ち、不安に感じる介護事業所の方も多いのではないでしょうか。
実地指導はどういったルールで行われ、事業所としてどのような効果があるのかを正しく理解すれば、その不安も払拭されるかもしれません。
そこで本記事では、令和版実地指導運用指針を踏まえたサービス種別ごとのポイントを紹介します。
実地指導の基本をおさらい
実地指導の基本的な目的は、介護事業所におけるサービスの質を向上させることです。介護事業所として介護サービスを提供するためには、自治体により指定を受け、定期的な実地指導を受けることが義務付けられています。
自治体から実地指導の通知が届いても慌てないように、準備や実地指導の流れについて、まずは理解しておきましょう。
実地指導の目的
自治体による実地指導は、事業所における利用者様の生活実態やサービスの提供状況、報酬基準の適合状況等を確認しながら、より良いケアの実現や保険給付の適正化を図るために行われます。
実地指導の実施通知書が届いたときの対応
実地指導の決定は、原則として1ヵ月前に郵送で事業所に通知文書が届くことになっています。通知文書には、実施日時や目的のほかに、事前提出書類一覧や当日提示書類が記載されています。
また、事前提出書類には提出期限が記載されていますので、期限までには必ず提出することを忘れないようにしましょう。
当日の流れ
実地指導の大まかな流れとしては、午前9時頃に自治体担当者が複数名で事業所を訪れ開始します。事業所の見学や書類の確認、職員への聞き取りなど休憩を入れながら1日かけて行われます。
そのため、会議室のような静かでやり取りに適した部屋を用意しておきましょう。実地指導が終了する際には、担当者から総評や口頭での指導などがありますので、やり取りが外に漏れないような配慮も必要です。
実施結果の通知方法
実施結果は、指導の内容によって通知方法が異なります。次の表は、具体的な指導方法と主な通知内容をまとめたものです。
指導区分 | 内 容 |
---|---|
口頭指導 | 比較的容易な指導内容は、当日に口頭で行われます。各事業所で修正、改善できるものがほとんどで、特段の事情がなければ、その後の結果報告は必要ありません。 |
文書指導 | 文書指導は法令違反や指定基準違反が確認され、運営改善が必要な事業所に対して行われる指導です。口頭指導による改善事項が是正されていない場合にも文書指導が適用され、改善状況については行政への報告が求められます。 |
特別指導 | 特別指導は、事業所を運営していく上で法令違反や指定基準違反があり、運営改善が必要な事業所に対して行われます。指導の結果改善が行われなかったり、悪質な対応が認められたりした場合は、指定の取り消しとなる可能性もあります。 |
実地指導と監査の違い
実地指導は、介護サービス事業者の育成を目的に行われ、監査は指定基準違反の疑いがあり、実地検査の必要がある場合に行われます。実地指導の途中で指定基準違反や不正請求が疑われる場合、対応中であっても監査に切り替わって調査が行われることが一般的です。
令和元年から導入された実地指導運用指針とは
実地指導は介護保険開始当初から、事業所のサービスの質を確保し、利用者様を保護する観点から実施されてきました。
ところが、担当者によって指導内容に主観が入っていたり、自治体によって確認項目に差異があったりしたことで、事業所や介護現場が混乱するという課題が徐々に見えてきました。
そこで令和元年5月、国から「介護保険施設等に対する実地指導の標準化・効率化等の運用指針について」という通知が発出され、現行の実地指導は既存のマニュアルと本指針を併用しながら実施することになったという状況です。
運用指針のポイント
「介護保険施設等に対する実地指導の標準化・効率化等の運用指針について」において実地指導運用指針が示されています。指導担当者や事業所にとって、効率よく客観的に実地指導が実施されるよう次の8点が標準化されました。
- 実地指導の標準確認項目等
- 実地指導の所要時間の短縮
- 実地指導の頻度
- 同一所在地等の実地指導の同時実施
- 関連する法律に基づく指導・監査の同時実施
- 運用の標準化
- 実地指導における文章の効率的活用
- 留意事項
効率化が重要視
運用指針の策定にあたって、実地指導の効率化がもっとも重視されました。例えば、居宅介護支援事業所が実地指導を受ける場合、同一敷地内にある通所介護事業所と訪問介護事業所も同じ日に実施することが認められたのは大きな変化です。
これは標準項目が明確になったことで、スムーズな運営状況が確認でき、指導時間が短縮されたことによる結果といえるでしょう。
同席制限の撤廃
今まで実地指導には、事業所の管理者が同席することとされていましたが、指針では「実情に詳しい従業者や事業所を経営する法人の労務・会計等の担当者が同席することは問題ない」と示されました。
これにより経験の浅い管理者の場合でも、実情を理解している担当者が同席のもと直接やり取りできるため、的確な実地指導の実施が可能です。
期待される導入の効果
運用指針が示されたことによる最大のメリットは、実地指導項目が標準化し、指導そのものが効率化したことです。これは、指導する自治体側だけではなく、事業所にとっても大きなメリットだといえるでしょう。
なぜなら、実地指導は当日だけではなく、事前提出書類や提示書類の作成など事業所は何日もかけて準備を行うからです。具体的な確認項目が事前に分かれば、準備の段階から効率よく書類を作成でき、利用者様へのサービスに専念することにつながるでしょう。
サービス別標準確認項目と対策ポイント
実地指導は、自治体担当者が事業所におもむき、基準条例や報酬告示等を満たしているか、聞き取りや提出書類をもとに指導を行うことが原則です。その際、自治体が実地指導を行う上で重要視しているポイントは次の2つです。
- サービスの質向上を目的とした運営に関する視点
- 不正請求の防止を目的とした報酬請求の確認という視点
本章では標準確認項目が示されたいくつかの事業を例にして、実地指導対策ポイントを紹介します。
訪問介護の場合
訪問介護のもっとも大きな特徴は、利用者様の自宅でサービスが提供される点です。一方で、適切なサービスが提供されているかが見えにくいというデメリットもあります。
実地指導対策のポイントは、事業所として適切なサービスの提供を行っていることを見える化するために、サービス提供記録や訪問介護計画を整備しておくことが重要です。
標準確認項目 | 標準確認文書 | |
---|---|---|
サービス提供の記録(第19条) | 訪問介護計画にある目標を達成するための具体的なサービスの内容が記載されているか | サービス提供記録 |
訪問介護計画の作成(第24条) | 利用者の心身の状況、希望及び環境を踏まえて訪問介護計画が立てられているか | 訪問介護計画(利用者又は家族の署名、捺印) |
通所介護の場合
通所介護は介護サービスのほかにも、送迎や非常時の対応など支援内容は多岐にわたります。実地指導の標準項目には、利用者様の安全を守るための確認事項が明記されています。
対策ポイントは、緊急対応時のマニュアル作成や報告書の様式、市町村や介護支援専門員に報告するルールを明文化しておくことです。
標準確認項目 | 標準確認文書 | |
---|---|---|
緊急時等の対応 (第27条) |
|
緊急時対応マニュアル、サービス提供記録 |
事故発生時の対応 (第104条の2) |
|
事故対応マニュアル、市町村・家族・介護支援専門員への報告記録、再発防止策の検討の記録 |
介護老人福祉施設の場合
介護老人福祉施設は、入所時にあたってルールの明確化や多職種でのサービス提供など質の高い介護を提供する体制が整っているかどうかが、実地指導対策のポイントになります。
入所サービスとして、24時間安全かつ安心できるサービスが提供されていることを文書で明文化しておきましょう。
標準確認項目 | 標準確認文書 | |
---|---|---|
入退所 (第7条) |
|
アセスメントシート、モニタリングシート、施設サービス計画、入所検討委員会会議録 |
施設サービス計画の作成 (第12条) |
|
施設サービス計画(入所者又は家族の署名、捺印)、サービス提供記録など |
小規模多機能型居宅介護の場合
小規模多機能型居宅介護の特徴は、通いや訪問、宿泊サービスを利用者様に合わせて柔軟に提供できるところです。運営にあたっては、地域住民との連携が必須となっているため、実地指導対策では具体的な連携について明記しておく必要があります。
標準確認項目 | 標準確認文書 | |
---|---|---|
サービス提供の記録(第19条) | 訪問介護計画にある目標を達成するための具体的なサービスの内容が記載されているか | サービス提供記録 |
訪問介護計画の作成(第24条) | 利用者の心身の状況、希望及び環境を踏まえて訪問介護計画が立てられているか | 訪問介護計画(利用者又は家族の署名、捺印) |
なお、本章で紹介した事業以外にも、「介護保険施設等に対する実地指導の標準化・効率化等の運用指針について」では、居宅介護支援事業所、認知症対応型共同生活介護、介護老人保健施設、訪問看護について、標準確認項目や確認文書が示されていますので、確認してきましょう。
実地指導対策はサービスの質を上げる
日ごろから実地指導を心がけることで、利用者様に対する職員の意識も上がり、サービスの質向上につながります。実地指導は第三者の視点で、質の高いサービスが提供されているか、適切な介護報酬を得ているか、貴重な評価を得る機会と前向きにとらえましょう。
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介護職員処遇改善加算は、介護報酬が高い分「キャリアアップ制度の充実」や「職場環境の改善」など厳しい要件を満たす必要があります。
日頃から熱心に加算取得に取り組んでいても実地指導で不備が認められれば、報酬返還となりますので、一度要件確認をしてみましょう。