介護業界で深刻化する人材不足
その背景と対策とは?
団塊の世代が後期高齢者の年齢に達する2025年問題をはじめ、課題が山積している介護業界。
平成30年5月21日掲載の厚労省報道発表資料によると、その中でも人材課題が大きなウェイトを占めることがわかっています。現場で指揮を取る施設長などは、すでに人材課題に直面されている方も多いことでしょう。
そこで本記事では、あらためて介護業界における人材不足の課題を整理し、有効な手段の一部をご紹介します。
介護業界における人材不足の現状と背景
まずは、介護業界における人材不足の現状と、その背景から整理していきましょう。
介護業界の人材に関する問題は数だけではない
2016年度時点で介護人材の需要人数は約190万人とされているのに対して、実際の介護職人数は183万人と約7万人不足しています。
出典:厚生労働省「介護サービス施設・事業所調査」
また、2025年には団塊の世代が後期高齢者(75歳)に突入。需要はさらに増えて約245万人の介護人材が必要になると言われています。この60万人以上の差分をいかに確保していくかが、介護業界に大きな課題としてのしかかっているのです。
さらに、介護業界における人材の課題はこうした「数」の問題だけではありません。
2018年時点で介護労働者の21.6%が60歳以上となっており、介護人材の高齢化も深刻化。
サービスの質の担保も難しくなるのではないかと懸念されています。
出典:介護労働安定センター 平成30年度「介護労働実態調査」
介護業界の人材課題の背景は少子高齢化が主な原因
上述のような介護業界における人手不足は、日本全体の「少子高齢化」が主な原因です。
2017年には6,530万人だった労働人口は、2040年には5,245万人と約20%も減少する見通しとなっており、日本全体が労働力人口の減少に直面しています。介護業界だけでなく、どの業界でも不足感は年々増しており、採用は難しくなる一方です。
さらに介護業界の場合は、高齢者はどんどん増えているため需要も増える一方。そのために、他の業界よりも深刻な人材課題を抱えていると言えます。
介護現場における人材課題
次に、全体としての人材不足の要因ともなっている、介護現場における人材課題を具体的に見ていきましょう。
離職率の高さ
1つ目の課題が、離職率の高さです。
介護職員は、他の職に比べても離職率が高いと言われています。離職の理由としては、「職場の人間関係」が20.0%、「法人・施設の理念や運営のあり方に不満」が17.8%、「将来の見込みが立たなかったため」15.6%、「収入が少なかったため」15.0%など、現状への不満が多く見てとれます。
出典:介護労働安定センター 平成29年度「介護労働実態調査」
こうした職員の不満を解消し、いかに定着率をあげられるかがポイントと言えるでしょう。
採用の難しさ
2つ目の課題は、採用の難しさです。
厚生労働省の調査によると、2018年時点で全業種の有効求人倍率が1.36倍なのに対して、介護業界の有効求人倍率は3.02倍。これはつまり1人の求職者を3社で取り合っている状況を示しており、その競争の厳しさは他業種の約2.2倍にもなっています。
また、採用を進める上で大きなネックとなっているのが、介護職の給与の低さです。全産業での平均賃金は33万3,800円に対して、介護職が該当する「社会保険・社会福祉・介護事業」では24万9,800円と大きな開きがあります。
これを受けて政府でも介護職員処遇改善加算の実施・見直しが進められています。
教育制度の未整備
3つ目の課題は、教育制度の未整備です。
今後、この人材不足を乗り切るためには外国人労働者の受け入れや、資格取得を推進することでキャリアアップを図れるようにするなどの体制整備が必要不可欠です。
また、介護する側の負担が増えることで高齢者虐待などの痛ましいトラブルを生まないよう、大切な人材をしっかりと育てていく教育制度を整えていきましょう。
採用難・離職率の背景にある介護現場のリアル
ここで一度、業界の外からは介護業界がどのようなイメージを持たれているのか、実態を把握しておきましょう。
長崎県が行ったアンケートでは、「介護の仕事をしたいと思わない」と回答した人に対してその理由をたずねたところ、「体力的・精神的にきついから」43.9%、「給与など待遇が悪いから」19.2% などと回答。介護の仕事に対して3K(きつい・汚い・危険)というイメージを持たれていることがわかっています。
介護業界は、利益構造からどうしても給与を低く設定せざるを得なかったり、職能や職域による差から縦社会の人間関係になりやすかったりという実情もあるでしょう。
一方で、人々の生活になくてはならないエッセンシャルワーカーであり、社会的意義も大きい仕事でもあります。
現状をしっかりと受け止め、このままでは立ち行かなくなることを認識した上で、早急に対策を講じていく必要があるでしょう。
介護業界の人材不足に対する国策
続いて、介護業界の人材不足に対して国がどのような対策を講じているか見てみましょう。
「CHASE」から「LIFE加算」などの科学的介護推進体制加算の取り組み
エビデンスに基づいた自立支援・重度化防止に取り組む「科学的介護」。その推進を目指して介護報酬の「LIFE加算」が2021年度からスタートしました。
「LIFE」への基本情報の入力および、「LIFE」からのフィードバックの活用を行うことで、利用者1人あたり40単位/月のインセンティブが付与されます。
ポイントは、単に入力するだけでなく、活用することが条件となっている点です。施設内でPDCAを回して、サービスの質の向上や生産性向上につなげていくことが求められています。
勤務年数10年以上の介護福祉士への処遇改善
2019年10月からは、介護職員の処遇の低さを改善するために、勤続10年以上の介護福祉士に対する処遇改善加算が創設されています。2019年10月からの引き上げられた消費税を充当して、対象者に月額8万円の増額または年収440万円を確保するというものです。
しかしながら、介護福祉士の平均勤続年数は平均で6年。いかに離職を食い止められるかは各施設での努力も求められます。
介護福祉資格取得の推奨
介護福祉士・社会福祉士養成施設に在学中の生徒を対象とした「介護福祉士等修学資金貸付制度」についてです。一般的な奨学金制度と異なり、この制度では卒業後5年間介護や相談援助の業務に従事した場合には貸付金が全額免除となる制度です。
この制度によって介護業界を目指す学生や、介護事業に従事する若者が増えることが期待されます。
外国籍における介護人材の技能実習制度での採用
外国人労働者の介護業界での活躍を目指し、2017年11月からは外国人技能実習制度に介護職種が追加されました。実際にベトナムから1万人の実習生を受け入れた事例などがあります。
しかし、就労よりも実習の意味合いが強い制度であるため、現場のスタッフや入居者、関係者にも理解が求められ現場の負担が重いという問題もはらんでいます。
介護現場における働きやすい労働環境の整備
これまで国の対策をご紹介してきましたが、続いては働きやすい労働環境の整備に向けて介護現場で行える対策をご紹介します。
ユニットケアシステムの導入
ユニットケアとは、入居者10名程度を1つのユニットとして、専任の介護スタッフがサポートにあたる介護手法を指します。 スタッフも小さなチームで動くことになりますので、人間関係も構築しやすく、また個々の役割が増す一方で自由度も高くなります。
そのためスタッフのストレスも軽減できるのではないかと期待されています。
ペーパーレス化を始めとした「IT・ICT」技術による業務改善
現場でできる労働環境の整備としてもう1つあげられるのが、「IT・ICT」技術を活用した業務改善です。業務効率化を図ることで、介護職員の負担を軽減し働きやすい環境を整えましょう。
具体的には
- ペーパーレス化によって、書類作成の手間や情報を探す手間を削減
- 見守りセンサーや介護ロボットによる介護業務の負担軽減
- モバイル端末の導入による情報共有の円滑化
などが考えられます。
ICTサービスによる介護人材課題の対策事例
導入事例「外国人スタッフにも使いやすい」
社会福祉法人晋栄福祉会 ケアホームちどり様
特別養護老人ホーム 100床
現在、ケアホームちどりではインドネシア、フィリピン出身等の10数名のスタッフを雇用しています。ケアサポートシステムは映像から一目で状況を判断できます。そのため、外国人スタッフであっても言葉の壁を意識しなくて済みます。導入教育も丁寧に行っていただき不安はありませんでした。
全文はこちら▶
導入事例「夜勤時間の使い方が変わり、精神面での負荷も軽減」
医療法人永仁会 ゆりの木様
介護老人保健施設 100床
夜勤は特に時間の使い方が変わったと思います。夜勤者は各フロア一人体制で13時間見守らなければなりません。 何かあった時に駆けつけるための体力に加え、他に頼れる人がいないという精神的負荷も大きいのですが、HitomeQ ケアサポートの導入によって「見て判断できる」ように変わった部分は、スタッフにとって体力的にも精神的にも大きな負担軽減になっています。
全文はこちら▶
業界と現場における介護不足の課題を「ICT」技術によって緩和
介護業界の人材課題は深刻で、国策としても改善が進められています。 現場が求める施策とのギャップを感じる面もあるかもしれませんが、「LIFE加算」などは、活用いかんによっては現場の改善を図りながらインセンティブがもらえる魅力的な制度と言えるでしょう。
一方で、現場での労働環境の改善も必要不可欠です。「ICT」の導入はハードルが高く感じられるかもしれませんが、助成金やインセンティブを活用することでコスト面も抑えられますし、各サービスでは現場に浸透できるようにソフト面のサポートも工夫されています。
ぜひこの改善の流れに乗って、「ICT」の導入を検討してみてはいかがでしょうか?